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人工甘味料は腸内細菌に何をするか 4種を科学で比較

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「ゼロカロリー」は「腸内細菌に無影響」を意味しない。吸収されない甘味料は大腸の菌叢と直接出会う。 SuezらのRCT(2014 Nature/2022 Cell)では、サッカリンとスクラロースが菌叢を変え、一部の人で血糖応答を乱したと報告されている。 腸への影響という観点では、合

TL;DR

  • 「ゼロカロリー」は「腸内細菌に無影響」を意味しない。吸収されない甘味料は大腸の菌叢と直接出会う。
  • SuezらのRCT(2014 Nature/2022 Cell)では、サッカリンとスクラロースが菌叢を変え、一部の人で血糖応答を乱したと報告されている。
  • 腸への影響という観点では、合成甘味料(スクラロース・アスパルテーム・アセスルファムK)と、糖アルコール/天然系(エリスリトール・羅漢果・アルロース)は同列に語れない。
  • ただし「天然=安全」も早計。エリスリトールには心血管との関連を示す報告がある。判断軸は出所ではなく、ヒトでの検証量。

「ゼロカロリー」という言葉が隠していること

有機の畑を10年見ていると、土に何を入れるかで微生物相がまるで変わるのが肌でわかる。堆肥を入れた区画は手を突っ込むと温かく、土の匂いが濃い。一方、化学的に「甘いだけ」で微生物のエサにならない物質を撒いても、土は肥えない。見た目は同じ黒い土でも、中で起きていることがまるで違う。

人工甘味料と腸の関係も、これとよく似ている。「ゼロカロリー」とは、ヒトの体がそこからエネルギーを取り出せない、という意味でしかない。ヒトが吸収しないということは、その分子が消化されずに大腸まで届き、そこに住む数十兆個の細菌と直接出会う、ということでもある。土に撒いた物質が微生物の前を素通りしないように、腸に入った甘味料も腸内細菌の前を素通りはしない。

カロリー表示はヒト視点の指標であって、腸内細菌視点の指標ではない。ここを混同すると、「ゼロカロリーだから腸にも無害」という飛躍が生まれる。近年の研究が問い直しているのは、まさにこの飛躍だ。

起点となった一本 — Suez 2014(Nature)

この分野の議論に火をつけたのが、ワイツマン科学研究所のJotham Suezらが2014年に Nature へ発表した論文だ(Suez et al., 2014)。

マウスにサッカリン、スクラロース、アスパルテームを与えたところ、サッカリン群で耐糖能の悪化が見られた。重要なのはその次で、抗生物質で腸内細菌を叩くとこの悪化が消え、サッカリン投与マウスの便を無菌マウスに移植すると耐糖能の悪化まで移った。つまり、甘味料そのものが直接血糖を乱したというより、腸内細菌の変化を介して効果が現れたと解釈された。論文では少人数のヒトでも、サッカリン摂取後に血糖応答が乱れる人がいたと報告している。

発表当時、この知見は大きな反響と同時に批判も呼んだ。用量がヒトの常用量より高い、ヒトのサンプルが小さい、といった指摘だ。研究チーム自身もこの限界を認識しており、より厳密なヒト試験へと進むことになる。それが2022年の論文だ。

ヒトで検証した一本 — Suez 2022(Cell)

2022年、同じチームは健康な成人120人を対象にしたランダム化比較試験(RCT)を Cell に発表した(Suez et al., 2022)。

参加者はサッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビアのいずれかを2週間摂取した。用量はいずれも各国機関が定める許容一日摂取量(ADI)を下回る、現実的な範囲に抑えられている。結果、4種すべてが便中および口腔内の微生物叢の構成と血漿の代謝物プロファイルを、それぞれ異なるパターンで変化させた。そして特にサッカリンとスクラロースの群で、血糖応答が有意に乱れたと報告された。

土壌の比喩でいえば、4種類の異なる資材を別々の区画に撒いて、それぞれ土の微生物相が違う方向へ動いた、という観察に近い。同じ「甘味料」というカテゴリでも、菌叢への作用は一律ではなかった。

さらにこの研究の核心は「個人差」にある。便を無菌マウスへ移植する実験で、甘味料への反応が大きかった人の便を移されたマウスほど血糖応答が乱れた。腸内細菌の構成しだいで、同じ甘味料でも効き方が変わる可能性が示された。痩せた区画と肥えた区画で、同じ肥料への反応が違うのと同じ構図だ。

ここで気になるダイエット飲料の常用層は多いはずだ。日々の一杯を見直したい人は、まず甘味料の「種類」を意識するところから始めたい。たとえば羅漢果を使った 羅漢果(ラカンカ)甘味料(楽天) のような選択肢は、置き換えの第一候補になりうる。

合成甘味料を腸の視点で並べる

合成甘味料の中でも、腸内細菌への研究蓄積には差がある。現時点で報告が多い順に整理しておく。

スクラロース(スプレンダ等)

スクラロースは砂糖の約600倍の甘さを持つ塩素化合物で、多くがそのまま大腸へ届く。動物実験では、Abou-Doniaらがラットにスプレンダを12週間与え、LactobacillusやBifidobacteriumといった有用とされる属の相対量が減ったと報告している(Abou-Donia et al., 2008)。ただしこの動物実験論文には2024年にExpression of Concern(懸念表明)が付与されており、専門家パネルは「スクラロース/スプレンダの有害性を示す確証とは解釈できない」と結論している。確定した知見ではなく方法論上の批判がある点に留意して読みたい。一方、より頑健なヒト試験である前述のSuez 2022では、スクラロースはヒトの血糖応答を乱した側に分類された。腸の視点では、最も注意して見ておきたい一群だ。

アスパルテーム

アスパルテームはアミノ酸由来で、小腸でほぼ分解・吸収されるため、理屈のうえでは大腸の細菌と接触しにくい。Suez 2022でも、微生物叢や代謝物の変化は観察されたものの、血糖応答を有意に乱した群には入らなかった。スクラロースやサッカリンとは作用の質が違う可能性がある。

アセスルファムK・サッカリン

アセスルファムK(アセスルファムカリウム)はスクラロースとセットで使われることが多い。サッカリンはSuezらの研究で一貫して菌叢と血糖の変化に関与した側に現れている。いずれもヒトでの長期データは発展途上で、断定は避けるべきだが、観察された変化の方向は無視できない。

糖アルコール・天然系 — 「肥料になるか」で分かれる

ここからは、土壌の比喩がもっとも効く領域だ。問いは「その甘味料は腸内細菌のエサになるのか、それとも素通りする化学物質なのか」である。

エリスリトール

エリスリトールは果物などに微量に存在する糖アルコールで、大半が小腸で吸収されて尿へ排出される。大腸の細菌にはあまり届かないため、腸内細菌叢への直接影響は比較的小さいと考えられてきた。ただし腸の話とは別の論点として、Witkowskiらは血中エリスリトール濃度と主要心血管イベントの関連、および血小板反応性の亢進を報告している(Witkowski et al., 2023)。これは観察研究と機序研究を組み合わせた知見で因果の確定には至っていないが、「天然由来だから無条件に安心」とは言えないことを示す好例だ。

羅漢果(ラカンカ)・アルロース

羅漢果は中国原産のウリ科植物で、甘味成分モグロシドはほぼ吸収されずカロリーをほとんど持たない。アルロース(プシコース)は果物に微量に存在する希少糖で、こちらもエネルギーになりにくい。どちらも植物由来で、伝統的な食経験はあるものの、腸内細菌叢への影響を調べたヒトの長期RCTはまだ限られている。「悪い証拠が少ない」ことと「良い証拠がある」ことは別物だ、という冷静さは保ちたい。

本当に「肥料になる」もの — プレバイオティクス

甘味として使え、かつ腸内細菌のエサ(肥料)になる成分も存在する。代表がイヌリンで、ヒトでは消化されず大腸の細菌に発酵される水溶性食物繊維だ。ほのかな甘みがありながら、ビフィズス菌などの基質になるとする研究が複数ある。ゼロカロリー甘味料が「肥料にならない物質」なら、イヌリンは「甘くて肥料にもなる」例外にあたる。料理やコーヒーに少量混ぜる用途なら、高純度イヌリン(機能性表示食品) のような形で取り入れやすい。希少糖を試したい場合は アルロース甘味料(楽天) も選択肢になる。

結局、どう付き合うか

研究を並べると、シンプルな結論は出ない。それでも実務的な指針はいくつか引き出せる。

第一に、「ゼロカロリー」と「腸に無影響」を切り離して考える。カロリー表示はヒトの代謝の話で、腸内細菌の話ではない。第二に、甘味料を一枚岩で扱わない。Suez 2022が示したように、スクラロースとアスパルテームは同じ箱に入らない。第三に、種類を分散させ、特定の合成甘味料を毎日大量に、という使い方は避けておくのが無難だ。

そして第四に、土と同じ発想を持ち込む。痩せた土を肥やすには、微生物のエサになる有機物を入れるしかない。腸も同じで、甘味料を引き算するだけでなく、食物繊維や発酵食品という「肥料」を足す視点を持つと、議論が前向きになる。甘いだけで肥料にならない物質を撒き続けても、土は肥えない。腸も、おそらく同じだ。

出典

  • Suez, J., Korem, T., Zeevi, D. et al. (2014). Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature, 514, 181–186. https://doi.org/10.1038/nature13793
  • Suez, J., Cohen, Y., Valdés-Mas, R. et al. (2022). Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance. Cell, 185(18), 3307–3328.e19. https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.07.016
  • Witkowski, M., Nemet, I., Alamri, H. et al. (2023). The artificial sweetener erythritol and cardiovascular event risk. Nature Medicine, 29, 710–718. https://doi.org/10.1038/s41591-023-02223-9
  • Abou-Donia, M. B., El-Masry, E. M., Abdel-Rahman, A. A. et al. (2008). Splenda alters gut microflora and increases intestinal p-glycoprotein and cytochrome P-450 in male rats. Journal of Toxicology and Environmental Health, Part A, 71(21), 1415–1429. https://doi.org/10.1080/15287390802328630

よくある質問

人工甘味料はゼロカロリーなのに、なぜ腸内細菌に影響するのですか?
ヒトの小腸でほとんど吸収されない種類の甘味料は、消化されないまま大腸へ届き、そこに住む細菌と接触します。カロリーがゼロでも腸内細菌にとっては異物として作用しうる、という点が近年の研究で注目されています。Suezら(2022, Cell)のヒト試験では、種類ごとに便中・口腔内の菌叢構成が異なる形で変化したと報告されています。ゼロカロリー=腸に無影響、ではないことが示唆されています。
天然由来の甘味料なら腸内細菌に安全と言えますか?
天然由来かどうかと腸内細菌への作用は、必ずしも一致しません。羅漢果やステビアは植物由来ですが、ヒトでの長期データはまだ限られています。一方エリスリトールは天然にも存在する糖アルコールですが、Witkowskiら(2023, Nature Medicine)は血中濃度と心血管イベントの関連を報告しています。出所より、ヒトでどの程度検証されているかで判断するのが妥当とされます。
ダイエット飲料を毎日飲んでいます。すぐにやめるべきですか?
現時点の研究は「絶対に有害」とも「完全に安全」とも断定していません。多くはRCTやコホート研究で、関連や変化を示した段階です。気になる場合は、量を減らす、種類を分散させる、無糖の炭酸水やお茶に置き換えるといった現実的な調整が選択肢になります。本記事は医療助言ではないため、持病がある方は医師に相談してください。

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