結論から: 200kg超のゴリラは毎日30種類以上の植物だけで筋肉を作り、野生類人猿の腸内細菌多様性は門・科・属のあらゆるレベルで現代人を大きく上回る(Moeller et al., 2014)。果物と葉を主体にした食事への転換で、筆者は便秘が消え体重67→55kg、コレステロール・中性脂肪が正常化した。
ゴリラの食性 — フルーツが主食、葉も食べ、昆虫で動物性タンパクを補う
ゴリラは肉食ではない。一日の大半を食べることに費やし、主食は果物、葉、茎、樹皮、芽——毎日30種類以上の植物を、何時間もかけてゆっくり噛んで食べる。雨季は果物が豊富なためフルーツ比率が上がり、乾季は繊維質の高い葉や茎が中心になる。この季節変動が腸内細菌の組成を大きく変化させる。ある季節には植物繊維を分解する菌が増え、果物が増える時期には腸の粘膜層を利用する別の菌が増える。野生のゴリラはこの季節のリズムを毎年繰り返し、腸内生態系を動的に維持している(Smits et al., 2017)。
「ゴリラはバナナが主食」という俗説は、動物園のイメージから生まれた誤解だ。野生のゴリラがバナナを主食にしている事実はなく、自然下では果実・葉・茎の多様な植物が食事の中心になる。シロアリやアリを食べて動物性タンパクを補うことはあるが、量としては少なく、主食ではない。
京都大学の研究では、野生のゴリラから多数の未知のビフィズス菌が発見されている(2012年)。ゴリラの腸には、現代人にはほとんど見られない菌が、今も生きている。
チンパンジーはより雑食に近い——ゴリラより果物への依存度が高く、果物が少ない季節でも果物を探し続け、昆虫や小動物を補食することもある。だが食事の主体は植物性食品だ。人間に最も近い遺伝的距離(DNA約99%共有)にあり、チンパンジーの食生活の変化を追うことは「人間の腸が何を失ったか」を知る手がかりになる。
野生類人猿 vs 現代人:失われた多様性
複数の研究が、衝撃的な事実を示している。野生のゴリラとチンパンジーの腸内細菌は、門・綱・目・科・属・種のあらゆる分類レベルで、現代人をはるかに上回る多様性を持っている(Moeller et al., 2014; Barelli et al., 2020)。
研究者たちはこう結論づけている——「現代人の腸内細菌は、野生の類人猿と比べて、祖先から受け継いだ多様性を大幅に失った。多くの現代人は、慢性的な食物繊維不足の状態にある可能性がある」。
食物繊維が不足すると、腸内細菌の餌が減る。餌がなくなった菌は、代わりに腸壁を守る粘膜層(ムチン層)を食べ始める。粘膜層が薄くなると、腸の炎症リスクが上がる——これが農薬で土の微生物が死ぬ過程と、構造的に同じだと私は感じている(Sonnenburg & Sonnenburg, 2014)。
同じ霊長類として、現代人の腸は確実に何かを失っている。
ここから先は、私が「強い動物は何を食べているか」という問いに出会い、自分の食生活を変えていった経緯を書く。霊長類の食性のデータから入った人は、上の結論をもとに プレバイオティクス食材15選 や 土と腸の完全ガイド に進んでもらってもいい。
私が霊長類の食性に出会ったきっかけ
農家として、私は長年「食べることへの無頓着さ」を抱えていた。
土のことは考えた。微生物のことは考えた。作物の根と土の界面で何が起きているかを考えた。でも、自分が何を食べるかについては、ほとんど考えていなかった。当時はなんとなくカロリーを調整して野菜をたくさん食べればいいのかなという程度の意識だった。
小さな悩みに思われるかもしれないが、便秘は10代の頃からの悩みだった。時には便秘が原因で冷や汗と吐き気が止まらなくなり救急車で運ばれることもあった。運動やヨーグルトを食べることで多少改善することはわかった。でも、根本の部分で何を変えればいいかわからなかった。
答えをくれたのは、Netflixのドキュメンタリーだった。
「強い動物は何を食べているか」という問い
ある夜、Netflixで『ゲームチェンジャー:スポーツ栄養学の真実』(The Game Changers, 2019)を見た。格闘技選手ジェームス・ウィルクスが、世界中の一流アスリートと科学者を訪ね歩き「最強の食事とは何か」を探すドキュメンタリーだ。
冒頭から、常識が揺らいだ。
地球上で最も大きく、最も強い陸上動物は何か。ゾウ、ゴリラ、サイ、カバ。どれも植物しか食べない。200kgを超えるゴリラの筋肉は、果物と葉だけで作られている。「肉を食べないと筋肉がつかない」という前提が、根本から崩れる映像だった。
さらに驚いたのが、アーノルド・シュワルツェネガーの登場だ。ミスターオリンピアを7度制覇し、映画『ターミネーター』で世界にその肉体を見せつけた男はベジタリアンだったのだ。
この映画をきっかけに、私は霊長類の食事についての文献を読み始めた——その先に冒頭で示したゴリラとチンパンジーの食生活データが待っていた。
ハーヴィー・ダイアモンドの体系
そこで出会ったのが、ハーヴィー・ダイアモンドとマリリン・ダイアモンドが1985年に書いた『フィット・フォー・ライフ』だ。世界で1,200万部を超えるベストセラーになったこの本は、一つのシンプルな主張から始まる。
「人間はもともと果食動物だ。フルーツこそ、私たちの体が最も必要としている食べ物だ」
彼らが根拠に挙げるのは、人間の体の構造だ。果食動物の特徴——果物の糖分を消化する唾液アミラーゼ、果物の酸を中和できる消化系、色彩を識別して熟した果実を見つける視覚——を人間はすべて持っている。対して、純粋な肉食動物の特徴(強力な胃酸、非常に短い腸)は人間の消化器系とは大きく異なる。
農業の視点で読むと、もう一つ気づくことがある。果物は本来、種を運んでもらうために動物に食べられるよう設計されている。甘く、栄養豊富に。植物と動物の共進化の産物がフルーツだ。土壌と根の関係と同じで、果物と人間の腸も、互いのために設計された関係なのかもしれない。
試した。変わった。
私が食事を変えたのは、2020年頃からだ。
朝食と昼食をフルーツにした。バナナ、りんご、オレンジ、みかん——食べたいときに食べたいだけ。ナッツ類も組み合わせた。カロリーや量を気にするのをやめて、ただ植物性のものを体が求めるだけ食べる、それだけのシンプルな変化だった。
最初の数週間は、体が慣れなかった。特にナッツ類はうまく消化できず、そのままトイレへ流れることもあった。「やはり無理があるのか」と思いかけた頃、何かが変わった。消化がされるようになり、それまで続いていた便秘が消えた。腸の中で仕組みが変わったと、はっきり感じた瞬間だった。10代から続いていた、あの重くて詰まった感覚がなくなった。
それだけではなかった。次の健康診断で、数値がすべて正常範囲に入っていた。コレステロールも中性脂肪も、むしろ下がりすぎたぐらいだった。体重も、1年の間に67kgから55kgほどまで落ちた——好きなだけ食べていたのに、だ。健康診断の担当者に「これは意識的に努力して痩せたのですか」と心配されるほどだった。
農家として考えると、これは当然の結果だった。フルーツには水溶性食物繊維(ペクチン)が豊富に含まれている。ペクチンは腸内細菌のプレバイオティクスとして機能し、短鎖脂肪酸の産生を促す。種類の違うフルーツを複数食べれば、腸内細菌が利用できる繊維の多様性も上がる。土に多様な有機物を入れると微生物が増える——あれと同じ話だ。
なお、これはあくまで私個人の体験であり、すべての人に同じ結果が出るとは限らない。食事の大幅な変更を検討する場合は、かかりつけの医師や管理栄養士に相談することをお勧めする。
わかったこと
ゴリラはなぜ便秘にならないのか。
毎日30種類以上の植物を、腸が処理できるペースでゆっくり食べているからだと私は考えている。腸内細菌に、多様な食物繊維を届け続けているからだ。土に有機物を絶やさない農業と、構造が同じだ。
私は、便秘に悩んだ20年以上の答えに、こんなところで気づいた。畑の外側だけ見て、自分の内側を見ていなかった。
ただ、自分の体感と健康診断の数値だけで確信するのは農家として不十分だ。土壌分析をしないで「この土は良い土だ」とは言えないように、腸内環境も詳しく数値で見たい。だから腸内フローラ検査をすることにした。
次回:フルーツ食を始めた後に読んだ本が、原理を説明してくれた。
出典
- The Game Changers(2019). 監督: Louie Psihoyos. Netflix. https://www.netflix.com/title/81157840
- ダイアモンド, H., & ダイアモンド, M.(松田麻美子訳).『フィット・フォー・ライフ』グスコー出版
- Moeller, A. H., Degnan, P. H., Harber, A., et al. (2014). Rapid changes in the gut microbiome during human evolution. PNAS, 111(46), 16431–16435.
- Smits, S. A., Leach, J., Sonnenburg, E. D., et al. (2017). Seasonal cycling in the gut microbiome of the Hadza hunter-gatherers of Tanzania. Science, 357(6353), 802–806.
- Barelli, C., et al. (2020). The microbiome and resistome of chimpanzees, gorillas, and humans across host lifestyle and geography. The ISME Journal, 14, 1584–1599.
- Sonnenburg, J. L., & Sonnenburg, E. D. (2014). Starving our microbial self: the deleterious consequences of a diet deficient in microbiota-accessible carbohydrates. Cell Metabolism, 20(5), 779–786.
- 京都大学(2012). 野生のゴリラから未知のビフィズス菌を多数発見. https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/archive/prev/news_data/h/h1/news6/2012/130208_1
よくある質問
- ゴリラは1日に何種類の植物を食べますか?
- 野生のゴリラは毎日30種類以上の植物を食べます。果物・葉・茎・樹皮・芽など多様な植物性食品を何時間もかけてゆっくり咀嚼し、この食の多様性が豊かな腸内細菌叢を維持する基盤になっています(Smits et al., 2017)。
- ゴリラの腸内細菌は現代人と比べてどう違いますか?
- 複数の研究(Moeller et al., 2014; Barelli et al., 2020)によると、野生のゴリラとチンパンジーの腸内細菌は門・科・属のあらゆる分類レベルで現代人を大幅に上回る多様性を持ちます。現代人は祖先から受け継いだ腸内細菌の多様性を大幅に失ったとされています。
- 霊長類はなぜ食物繊維を大量に必要とするのですか?
- 食物繊維は腸内細菌の主要な「エサ」です。霊長類の腸内細菌は食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を産生し、腸粘膜の修復・炎症抑制・免疫調節に機能します。食物繊維が不足すると腸内細菌の餌が減り、代わりに腸壁の粘膜層(ムチン層)が分解されて腸の炎症リスクが上がります(Sonnenburg & Sonnenburg, 2014)。
- 人類の腸は進化の過程で何を失ったのですか?
- 研究者たちは、現代人の腸内細菌が野生の類人猿と比べて祖先由来の多様性を大幅に失ったと指摘しています。農耕・加工食品・抗生物質の普及により食物繊維摂取量が激減し、それに依存していた腸内細菌の多くが失われたと考えられています。この変化が現代の慢性疾患と関連するとする研究が増えています。
- ゴリラのような食の多様性に近づけるには何から始めればいいですか?
- まず1日に食べる植物の「種類数」を増やすことが有効とされています。同じ野菜を大量に食べるより、複数の異なる野菜・果物・豆類・雑穀を少量ずつ取り入れることで、腸内細菌が利用できる食物繊維の多様性が上がります。食事を大幅に変更する場合は、かかりつけの医師や管理栄養士に相談してください。