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最も遺伝に左右される腸内細菌の正体

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腸内細菌の組成は食事や環境で決まると思われがちだが、2014年のCell論文は『遺伝の影響を最も強く受ける菌』が存在することを双子研究で示した。その筆頭がChristensenellaceaeという科で、遺伝率は約0.42と推定された。この菌は痩せ型(低BMI)の人に多く、無菌マウスへの移植実験では体重増加を抑える効果が観察された。ただしこれは『この菌で痩せる』という臨床的処方ではなく、宿主の遺伝が腸内細菌の構成を形づくりうるという原理の証明である。

TL;DR

  • 腸内細菌の組成は「食べたもので決まる」だけでなく、宿主の遺伝の影響を強く受ける菌が存在する。
  • 英国の双子1000人超(416ペア)を比べた2014年のCell論文で、最も遺伝率の高い腸内細菌として浮かび上がったのがChristensenellaceae(クリステンセネラ科)だった。遺伝率は約0.42と推定された。
  • この菌は痩せ型(低BMI)の人に多い傾向があり、メタン生成古細菌などと菌の共同体(ネットワーク)を作っていた。
  • 無菌マウスに、Christensenellaceaeの少ない便を移植したうえでChristensenella minutaを加えると、移植マウスの体重増加が抑えられた
  • ただしこれは「この菌で痩せる」という処方ではなく、宿主の遺伝が腸内細菌の構成を形づくりうるという原理の証明である。ヒトへの応用は研究段階。

畑の土を観察すると、同じ地域・同じ肥料でも、ある区画には特定の微生物が安定して棲みつき、別の区画には根づかない、ということが起こる。土の物理性や根が出す分泌物といった「畑そのものの性質」が、どの微生物が定着できるかを選り分けているからだ。つまり微生物相は、外から撒くもの(肥料=食事)だけでなく、土の側の素質によっても決まる。

腸でも同じ問いが立てられる。腸内細菌は食事で決まるのか、それとも「腸という畑」の側の性質、すなわち宿主の遺伝が選り分けているのか。この問いに双子という強力な実験デザインで答えたのが、米コーネル大学Ruth Ley研究室のGoodrichらが2014年に発表した論文である。本稿ではこの一本を、土壌のアナロジーとともに読み解く。

なぜ「双子」で遺伝の影響がわかるのか

一卵性双生児は遺伝情報がほぼ同一で、二卵性双生児は通常のきょうだいと同じく遺伝の約半分を共有する。どちらのペアも多くは同じ家庭で育ち、食事や環境を共有してきた。そこで「一卵性のほうが二卵性より腸内細菌が似ている」なら、その差は環境ではなく遺伝で説明しやすい——これが双子研究の論理である。

Goodrichらは英国の大規模双子コホートTwinsUKの便サンプル1000検体超(416双子ペアを含む)を解析した。腸内細菌のどの分類群が、一卵性ペアでより強く一致するか(=遺伝の影響を受けるか)を統計的に推定したのである。

最も遺伝率の高い菌、Christensenellaceae

解析の結果、宿主の遺伝の影響を最も強く受けた分類群がChristensenellaceae科だった。その遺伝率は約0.42(95%信頼区間0.25-0.48)と推定された。遺伝率0.42とは、ざっくり言えば「この菌の量のばらつきのうち、無視できない部分が宿主の遺伝差で説明されうる」という意味であり、腸内細菌の中では際立って高い値である。

Christensenellaceaeは2012年に、日本人の便から分離された代表種Christensenella minutaによって記載された、比較的新しく名づけられた科だ。多くの人の腸に少量ずつ存在するが、量の個人差が大きい。Goodrichらの結果は、その個人差の少なからぬ部分が「何を食べたか」ではなく「どんな腸を持って生まれたか」に由来しうることを示唆した。

痩せ型の人に多いという関連

さらにこの研究では、Christensenellaceaeが低BMI(痩せ型)の人に多いという関連が観察された。加えてこの菌は単独で存在するのではなく、ほかの遺伝の影響を受けやすい菌や、水素を消費して**メタンを作る古細菌(Methanobrevibacter)**などと結びついた共同体(co-occurrenceネットワーク)を形づくっていた。

ここで強調しておきたいのは、これは相関だという点だ。「痩せている人にこの菌が多い」ことと、「この菌が人を痩せさせる」ことは別の主張である。原因と結果のどちらが先かは、観察研究だけでは決められない。そこで著者らは因果に踏み込むため、動物実験に進んだ。

無菌マウスが示した因果の手がかり

著者らは、Christensenellaceaeが乏しいヒトの便を無菌マウス(腸内細菌を一切持たないマウス)に移植した。その一部には、培養したChristensenella minutaを加えてから移植した。すると、菌を加えた群では移植マウスの体重増加が抑えられ、腸内細菌の構成も変化した。

これは「相関」を一歩越えて、Christensenellaceaeが宿主の代謝表現型(この場合は体重増加)に因果的に関与しうることを示した手がかりである。ただし対象はマウスであり、ヒトでサプリのように摂れば痩せる、という臨床的処方が証明されたわけではない。ヒトへの応用は今も研究段階にある。

土壌のアナロジー — 「畑の素質」が微生物を選ぶ

冒頭の畑の話に戻ろう。同じ肥料を撒いても、土の側の性質——団粒構造、pH、根が出す分泌物——によって、どの微生物が定着し殖えるかは変わる。土は受け身の入れ物ではなく、自分に合う微生物を選り分ける主体でもある。

腸も同じだ。Goodrichらが見せたのは、腸内細菌相が食事という「外から撒くもの」だけで決まるのではなく、宿主の遺伝という「腸という畑の素質」によっても形づくられる、という構図である。Christensenellaceaeは、その素質を最も敏感に映し出す指標菌だった。

この視点は実務的にも示唆に富む。同じ食事・同じプレバイオティクスを与えても、人によって腸内細菌の反応が違うのは当然なのだ——畑が違えば、同じ堆肥でも育つ微生物が違うように。だからこそ「万人に効く一つの正解」ではなく、自分の腸という畑の素質を踏まえた付き合い方が要る。ただし「遺伝で決まっているから何をしても無駄」ということではない。土の素質が定着しやすい微生物を選り分けても、与える堆肥(食物繊維など)で殖え方は変えられる。遺伝率0.42は、裏を返せば残りの大部分に環境の余地があるということでもある。

まとめ — 相関を越えるための一里塚

Goodrichらの2014年Cell論文は、(1)腸内細菌相が宿主遺伝の影響を受けること、(2)その影響を最も強く受けるのがChristensenellaceaeであること(遺伝率約0.42)、(3)この菌が痩せ型の人に多いこと、(4)無菌マウスでは体重増加抑制と因果的に結びつきうること、を一続きの証拠として提示した。

腸内細菌を「土」になぞらえるなら、これは「どんな微生物が棲みつくかは、撒くもの(食事)だけでなく畑(遺伝)も決める」という土壌生態学の常識を、ヒトの腸で実証した一本である。なお「この菌で痩せる」と断定する商品宣伝には、出典と研究段階(マウスなのかヒトなのか、相関なのか因果なのか)を必ず確認してほしい。

出典

  • Goodrich JK, Waters JL, Poole AC, Sutter JL, Koren O, et al. “Human Genetics Shape the Gut Microbiome.” Cell. 2014;159(4):789-799. DOI: 10.1016/j.cell.2014.09.053 / PMID: 25417156
  • Morotomi M, Nagai F, Watanabe Y. “Description of Christensenella minuta gen. nov., sp. nov., … and proposal of Christensenellaceae fam. nov.” International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology. 2012;62(Pt 1):144-149.(代表種・科の記載)

よくある質問

Christensenellaceae(クリステンセネラ科)とは何ですか?
ヒトの腸内に広く存在する細菌の一群(科レベルの分類)で、2012年に代表種Christensenella minutaが日本人の便から分離・記載されたことで命名されました。多くの人の腸に少量ずつ見られる一方、量には大きな個人差があります。2014年のGoodrichらの双子研究で『ヒトの遺伝の影響を最も強く受ける腸内細菌』として注目され、痩せ型の人に多い傾向や、メタンを作る古細菌などと菌の共同体(ネットワーク)を形づくることが報告されました。
腸内細菌は遺伝で決まるのですか?それとも食事ですか?
両方が関わりますが、菌の種類によって遺伝の効き方が異なります。Goodrichらは一卵性双生児と二卵性双生児を比較し、一卵性のほうが腸内細菌の組成が似ていることから、特定の菌に宿主遺伝の影響(遺伝率)があると推定しました。Christensenellaceaeの遺伝率は約0.42と最も高い部類でしたが、腸内細菌全体としては食事・環境・同居といった要因の影響も大きいと考えられています。遺伝で『固定』されるわけではありません。
Christensenellaceaeを増やせば痩せられますか?
現時点ではそう断定できません。この研究で示されたのは、痩せ型の人にこの菌が多いという相関と、無菌マウスへの移植で体重増加が抑えられたという動物実験の結果です。ヒトでサプリのように摂って減量できるという臨床的な証明ではなく、応用は研究段階にあります。体重は食事・運動・遺伝・睡眠など多因子で決まり、腸内細菌はその一要素です。『この菌で痩せる』とうたう商品には、出典と研究段階を必ず確認することをおすすめします。

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