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微生物を食べる — 人と地球の健康をつなぐ食(Jahn 2023)

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発酵食品、微生物タンパク(菌体由来のタンパク質)、精密発酵などの『微生物食品』は、ヒトの栄養・腸の健康と、地球環境の持続可能性の双方に資する可能性がある(Jahn et al. 2023, Cell)。動物性食品より環境負荷が小さい場合があり、未来の食の選択肢として注目される。土の微生物が養分を循環させるように、微生物食品は食料生産の輪を閉じうる。

TL;DR

  • 微生物食品(発酵食品・微生物タンパク・精密発酵など)は、ヒトの栄養・腸の健康と、地球環境の持続可能性の双方に資する可能性がある(Jahn et al. 2023, Cell)。
  • 微生物は家畜より少ない土地・水・時間で増やせ、環境負荷が小さい場合がある。
  • 発酵・培養は農業副産物を食に変え、食料生産の輪を閉じることにもつながりうる。
  • ただし生産方法次第で環境負荷は変わり、効果は製品により異なる(研究段階も多い)。
  • 土の微生物が養分を循環させるように、微生物食品は人と地球の物質循環をつなぎうる——壮大だが地に足のついた未来像。

畑では、微生物が落ち葉や糞を分解し、養分を作物へと循環させる。微生物は「食料生産の輪を閉じる」分解者であり生産者だ。この総説は、その微生物の力を食卓に直接持ち込む——微生物そのものを食べる——という発想を、人と地球の健康の観点から論じている。

「微生物食品」という大きな括り

総説(Jahn LJ, Rekdal VM, Sommer MOA、2023年、Cell)は、微生物が関わる食品を幅広く捉える。古くからの発酵食品に加え、微生物の菌体を食べる微生物タンパク、微生物に特定成分を作らせる精密発酵までを「微生物食品」として横断的に論じる。

共通するのは、微生物の代謝能力を借りて、栄養価の高い食を作るという発想だ。人類は発酵という形で古くからこれを実践してきたが、現代の技術はその射程を大きく広げている。

人の健康 — 栄養と腸

微生物食品は、タンパク質・ビタミン・繊維などの栄養を供給しうる。発酵食品は菌や発酵代謝物を含み、腸内細菌の文脈で語られてきた。微生物タンパクの一部はβ-グルカンなどの繊維を含み、プレバイオティクス的な働きも議論される。

ただし、健康への効果は製品や個人により異なり、確立した一般的効能を主張できる段階ではない。総説も可能性と研究課題を整理する立場だ。

地球の健康 — 持続可能性という軸

この総説の特徴は、食を「地球環境」の観点からも評価する点にある。微生物は、家畜に比べて少ない資源で増やせ、温室効果ガスの排出を抑えられる場合がある。農業副産物を栄養源に変える培養は、廃棄物を食に変える循環にもなりうる。

これは、健康だけを語ってきた栄養学に、惑星規模の視点(プラネタリーヘルス)を接続する試みだ。「何が体に良いか」だけでなく「何が地球に持続可能か」を同じ食の中で問う。

土壌のアナロジー — 輪を閉じる微生物

良い土づくりの核心は、微生物による物質循環だ。微生物が有機物を分解し、養分を作物が使える形に変え、また土へ還る。この閉じた輪が、外部資源に頼りすぎない持続可能な農を支える。

微生物食品は、この「輪を閉じる微生物の働き」を食料生産そのものに適用する発想といえる。土の微生物が畑の物質循環を回すように、食用微生物が食料システムの循環を回す。Loamが土と腸に見てきた循環の原理が、ここでは食と地球のスケールに拡張される。

射程と限界 — 万能ではない

注意も必要だ。微生物食品なら何でも環境に良い・健康に良いわけではない。生産に使うエネルギー源や原料次第で環境負荷は変わり、健康効果も製品により異なる。精密発酵などの新技術は、安全性や受容性の検討がこれからの部分も多い。

それでも、人の健康と地球の健康を同じ食の中で考えるという枠組みは重要だ。Loamの「土を耕すように腸を耕す」という思想は、もともと食・腸・土・環境を一続きのものとして見るものだった。この総説は、その視野をさらに食料システム全体へと広げてくれる。味噌やテンペを食卓に置くことは、腸を耕すと同時に、ささやかに地球の物質循環に参加することでもある——そう考えると、日々の一皿の意味が少し変わって見えてくる。


出典

  • Jahn LJ, Rekdal VM, Sommer MOA. 2023. Microbial foods for improving human and planetary health. Cell 186(3):469-478. DOI: 10.1016/j.cell.2022.12.002 / PMID: 36657442

よくある質問

『微生物食品』とは具体的に何ですか?
微生物が関わって作られる食品の総称です。古くからある発酵食品(味噌・テンペ・ヨーグルト・キムチなど)に加え、微生物の菌体そのものを食べる微生物タンパク(マイコプロテイン等)、特定の微生物に有用成分を作らせる精密発酵などが含まれます。総説は、これらを『微生物の力で作る食』として横断的に捉え、栄養と環境の両面から評価しています。
なぜ微生物食品が地球環境に良いとされるのですか?
微生物は、家畜に比べて少ない土地・水・時間で増やせ、温室効果ガスの排出も抑えられる場合があるためです。発酵や微生物培養は、農業副産物などを栄養に変えて『食料生産の輪を閉じる』ことにもつながりえます。ただし生産方法やエネルギー源によって環境負荷は変わるため、『微生物食品なら何でも環境に良い』わけではない点には注意が必要です。総説はこの可能性と条件を整理しています。
微生物食品は腸活にも関係しますか?
関係します。発酵食品は菌や発酵代謝物、繊維を含み、腸内細菌の文脈で語られてきました。微生物タンパクの一部は食物繊維(β-グルカンなど)を含み、プレバイオティクス的に働く可能性も議論されています。総説は、微生物食品が栄養供給だけでなく腸の健康にも関わりうると整理しますが、個々の効果は製品により異なり、研究段階のものも多い点は踏まえておきたいところです。

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