スマートフォンの上にも、水筒の中にも、手を洗う前にも、洗った後にも――微生物はいたるところにいる。再生数1000万回を超えるKurzgesagtの人気動画『How Bacteria Rule Over Your Body – The Microbiome(細菌はいかにあなたの体を支配するか)』は、こんな身近な観察から始まる。
私たちはこの無数の客と、太古の昔に「住処と食料を与える代わりに働いてもらう」という契約を結んだ、と動画は語る。これは畑の話にもよく似ている。土の中の微生物多様性が作物を病害から守るように、腸内の微生物多様性が私たちを守る――loam.jpが掲げる「土を耕すように腸を耕す」という視点とぴたり重なるテーマだ。本記事では、この動画の文字起こしに忠実に、動画が実際に説明している要点だけをQ&A形式で整理する。
TL;DR
- 微生物は遍在し、私たちの体は太古から微生物と「共生の契約」を結んできた、と動画は説明する。
- 人は無菌で生まれ、出産・母乳を通じて細菌叢が育ち、健全な集団ができるまで最大2年かかるとされる。
- 腸には推定380兆個・最大5000種の細菌がおり、消化を助け追加のカロリーを引き出す。
- 腸内細菌は免疫と密接にやり取りし、近年は脳との関わり(腸脳相関)まで示唆されている。
- うつ・知能・食の好みとの関連を示す研究も紹介されるが、いずれも研究段階の知見である。
Q. 私たちと微生物の関係は、どんなものだと動画は説明している?
動画は、微生物は「遍在」していて避けようがないと前置きしたうえで、数百万年前に私たちは微生物と「住処と食料を与える代わりに働いてもらう」という協定を結んだ、と説明している。ただし学べば学ぶほど、この協力関係は穏やかな共生というより「冷戦」のようにも見える、というのが動画のトーンだ。
人の体には3種類の「客」がいると整理される。(1) 自分のことをして場所を取り、より攻撃的な侵入者を抑える「静かな同乗者」、(2) 害はあるが共存を学んだ相手(例:歯を溶かす酸を作る細菌)、(3) 体が積極的に置いておきたい「友好的な仲間」――この三つだ。
Q. 赤ちゃんの細菌叢はどうやって作られると説明している?
動画によれば、人は母親の胎内では無菌の状態にある。生まれて産道を通るときに、母親の数十億の細菌が体のあらゆる部分を覆う。これは人の健康に欠かせない過程だとされ、その傍証として、帝王切開で生まれた子どもには喘息・免疫疾患・白血病の割合が高いという観察が紹介される。
さらに母乳には、特定の微生物群を養い支える特別な糖が含まれ、ほかの菌に対しては「おとり」として働き、免疫系の調整も助ける、と動画は説明する。健全な微生物の集団ができあがるまでには最大2年かかるという。これは、種をまいてから土の微生物相が安定するまで時間がかかるのとよく似ている。
Q. 腸内細菌は私たちのために何をしていると説明している?
「友好的な仲間」の多くは腸に暮らす集団で、動画は推定380兆個・最大5000種という数を挙げる。彼らは食べ物の消化を助け、私たち自身では分解できないものから追加のカロリーを引き出す、とされる。
一方で腸は侵入者にとって格好の攻撃点でもあるため、免疫系という「攻撃的な軍隊」に守られている。ここで生き延びるために、腸内細菌は私たちと共進化して体と「会話」できるようになった、と動画は語る。最も重要なのは免疫系に「自分を殺さないでほしい」と頼むことだが、彼ら自身も腸を健康に保つ動機を持ち、免疫を教育するメッセンジャー物質を作る菌や、腸の細胞の再生を速める菌もいるという。
Q. 腸内細菌は脳とも関わると動画は述べている?
近年、腸内細菌叢の影響は脳にまで及ぶ「可能性」を示す証拠が現れている、と動画は説明する。挙げられている観察は次のようなものだ。
- 体のセロトニン(神経細胞の重要な伝達物質)の約90%が腸で作られる。一部の科学者は、微生物が神経系の「情報ハイウェイ」である迷走神経と通信するためにこれを行っているのではと考えている。
- 腸の免疫細胞を刺激し、脳に一種の警報を送る菌がいる。それが脳の損傷からの回復を助ける免疫細胞を活性化させる例もある。
そして、脳が「いつ食べるか」を決める以上、微生物は健康な脳に関心がある、という論理が示される。動画自身が「新しい科学分野が開きつつあり、私たちはこれらの複雑な系の相互作用を理解し始めたばかり」と慎重に述べている点は重要だ。
Q. 行動や好みへの影響はどう紹介されている?
動画は、行動への影響を示唆する研究をいくつか紹介している。健康なラットに、うつの人の腸内細菌を与えたところ、不安様の行動やうつに似た症状を示し始めたという研究。2017年初頭には、新生児の特定の細菌構成を、より良い運動・言語スキルと結びつけて知能との関連を示した研究。さらにショウジョウバエの実験では、微生物相がどんな食べ物を欲するかに影響したという。
これは「微生物があなたの脳に、自分たちのほしい食べ物を要求させている」かもしれない、という刺激的な解釈につながる。ただし動画は「これは一方通行ではない」とも明言する。微生物叢の「種」は母親から受け継ぐが、それがどう育ち変化するかは、私たちが何を食べるかで決まる――腸内の生き物は食物繊維など異なるものを餌にするからだ。
ひとこと(畑の視点で)
畑を見ていると、この動画の説得力がよくわかる。良い土は、決して無菌の「清潔な土」ではない。多様な微生物がせめぎ合い、ときに競争しながら全体としてバランスを保っている――動画の言う「冷戦」という比喩は言い得て妙だ。そして土の微生物相が、与える堆肥や有機物(=餌)で変わっていくように、腸内細菌叢も「何を食べるか」で育っていく。
動画が繰り返し「研究段階」「理解し始めたばかり」と但し書きを付けているのも誠実だと感じた。腸活も農業も、わかった気にならず、餌(食物繊維など)を多様にまいて長い目で土壌=腸を耕すのが結局いちばん理にかなっている。
元動画
- チャンネル: Kurzgesagt – In a Nutshell
- タイトル: How Bacteria Rule Over Your Body – The Microbiome
- URL: https://www.youtube.com/watch?v=VzPD009qTN4
※本記事は教育目的で動画の内容を要約・紹介したものであり、診断・治療・予防を目的とするものではありません。体調や健康に不安がある場合は、自己判断せず医療機関や専門家に相談してください。
よくある質問
- Kurzgesagtの動画では、人の腸にどれくらいの細菌がいると説明していますか?
- 動画では、私たちが体に持つ『友好的な客』の多くが腸にいる細菌の集団で、推定で約380兆個、最大5000種にのぼると説明しています。これらの腸内微生物は食べ物の消化を助け、私たち自身では分解できないものから追加のカロリーを引き出すとされます。数値はあくまで動画が紹介する推定であり、研究によって幅があります。健康状態に不安がある場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。
- 帝王切開で生まれると違いがあると動画は述べていますか?
- 動画では、人は母親の胎内では無菌の状態で生まれ、産道を通る際に母親の細菌が体を覆うと説明しています。そのうえで、帝王切開で生まれた子どもは喘息・免疫疾患・白血病などの割合が高いという観察を紹介しています。これは動画が紹介する関連性の話であり、原因を断定するものではありません。出産方法は医学的事情で決まるものであり、心配な点は必ず産科医に相談してください。
- 腸内細菌は脳にも影響すると動画は言っていますか?
- 動画では、近年の証拠として腸内細菌叢の影響が脳にまで及ぶ『可能性』が示唆されていると説明しています。例として、体内のセロトニンの約90%が腸で作られること、うつの人の腸内細菌をラットに移すと不安様の行動が見られた研究、新生児の細菌構成と運動・言語スキルを結びつけた研究などを挙げています。いずれも研究段階の知見で、人間への一般化は慎重にすべきだと動画自身も述べています。