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同じパンでも血糖値の上がり方は人それぞれ

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🎥 元動画: Eran Segal - Personalized Nutrition for Diabetes Treatment Based on Gut Microbiota — JumpstartMD
白いパンを食べても血糖値が急上昇する人とほとんど上がらない人がいます。Zeevi らの研究(Cell 2015)は、800人の食後血糖2万件超を解析し、その個人差を腸内細菌叢を含む個人データから機械学習で予測できることを示しました。さらに予測モデルに基づく個別化食は、一律の食事ガイドラインより食後血糖の改善幅が大きいとする臨床研究もあります。畑ごとに土壌診断して施肥を変えるように、腸の細菌プロファイルごとに食事を設計する『精密栄養』の発想です。

白いパンを2枚食べる。バナナを1本食べる。隣の人とまったく同じものを食べたのに、自分の血糖値だけがぐっと跳ね上がり、相手はほとんど動かない――そんなことが現実に起こります。

イスラエル・ワイツマン科学研究所の Eran Segal らのチームは、この「同じ食事でも反応は人それぞれ」という現象を大規模に測定し、しかも個人のデータからその反応を予測できることを示しました。本記事では、その研究を畑の土壌診断になぞらえて読み解きます。

TL;DR

  • 同じ食品でも食後血糖(血糖応答)の上がり方には大きな個人差があり、それを腸内細菌叢を含む個人データから機械学習で予測できる(Zeevi et al., Cell 2015)。
  • 予測モデルに基づく個別化食は、一律の食事ガイドラインより食後血糖の改善幅が大きいとする臨床研究がある(Ben-Yacov et al., Diabetes Care 2021)。
  • 「健康に良い食品/悪い食品」という一律のラベルは個人差を取りこぼす。同じパンが、ある人の血糖を上げ、別の人の血糖をほとんど上げないことがある。
  • 腸内細菌叢の組成は食後血糖応答の予測因子の一つで、糖尿病前症・2型糖尿病の食事管理への応用が研究されている。
  • 発想は土壌診断と同じ。畑ごとに施肥を変えるように、腸の細菌プロファイルごとに食事を設計する「精密栄養」だ。

「健康に良い食品」という地図は、なぜズレるのか

私たちはずっと、食品を「良い/悪い」の二択で語ってきました。白米やパンはGI値が高いから血糖を上げる、玄米は低いから上げにくい――こうした一律のラベルです。

ところが Zeevi らの研究(Cell 2015)は、その地図が個人レベルでは大きくズレることを示しました。800人にセンサーを装着して1週間の血糖を連続測定し、46,898食分の反応を解析したところ、まったく同じ標準化された食事に対して、人によって食後血糖の上がり方が大きく違ったのです。ある人にとってパンは血糖を跳ね上げる食品で、別の人にとってはほとんど影響しない食品でした。

これは畑を見てきた人間には腑に落ちる話です。「窒素肥料は作物を育てる」という一般論は正しい。けれど、ある畑では効き、別の畑では効きすぎて軟弱に育ち、また別の畑ではほとんど反応しない。土の状態が違えば、同じ入力に対する出力が変わる。食品のGI値という「平均的な地図」も、それを受けとる体の土壌が違えば現実とズレるのです。

反応を決めるのは「食品」ではなく「受けとる側」

では、何がこの個人差を生んでいるのか。Zeevi らは、年齢・体格(BMI)・血液検査の指標・食習慣・身体活動、そして腸内細菌叢の組成といった個人データを統合する機械学習アルゴリズムを構築しました。すると、これらの特徴量から個人の食後血糖応答をかなりの精度で予測できたと報告されています。

注目すべきは、腸内細菌叢が予測因子の一つとして組み込まれた点です。つまり、口に入れた食品そのものの性質だけでなく、それを腸で受けとり代謝する細菌のプロファイルが、血糖の上がり方に関与しているとされます。

土壌の世界では当たり前の感覚です。同じ堆肥を入れても、土壌微生物の構成が違えば分解・無機化のスピードが変わり、作物に届く栄養のタイミングと量が変わる。土の中の見えない微生物群集が、地上の作物の姿を左右する。腸も同じで、見えない細菌群集が、私たちの代謝という「地上部」を静かに方向づけているのです。

一律ガイドラインより、個別設計のほうが効く場合がある

「予測できる」だけでは実用になりません。重要なのは、その予測を使って食事を組み替えたとき、実際に良い結果が出るかどうかです。

糖尿病前症(プレ糖尿病)の成人225人を対象にした無作為化研究(Ben-Yacov et al., Diabetes Care 2021)では、機械学習で個人の食後血糖を予測して設計した個別化食(PPT食)と、一般に健康的とされる地中海食を6か月間比較しました。その結果、PPT食のほうが食後高血糖の時間やHbA1cといった指標をより大きく改善し、その差は12か月の追跡時点でも維持されたと報告されています。

また、新たに2型糖尿病と診断された人を対象にした小規模なパイロット無作為化試験(Rein et al., BMC Medicine 2022)でも、予測に基づく個別化食が血糖コントロールや代謝指標の改善に関連したと報告されています。ただしいずれも対象人数や期間に限りがあり、「誰にでも効く万能の食事法」と断定できるものではありません。あくまで「一律のラベルより、個人差を織り込む余地がある」という研究知見です。

畑でいえば、地域共通の「標準施肥設計」より、その畑の土壌診断結果に合わせた処方のほうが収量・品質で上回ることがある――それと同じ構図です。

腸内細菌は「予測因子」であって「魔法のスイッチ」ではない

ここで誤解してはいけないのは、「腸内細菌を整えれば血糖が下がる」という単純な因果ではない、という点です。

研究が示しているのは、腸内細菌叢の組成が食後血糖応答を予測する因子の一つであり、個別化食の効果に関与しうるという相関・予測の関係です。「この菌を飲めば血糖が下がる」と因果的に断定できる段階ではありません。サプリやヨーグルトで特定の菌を入れれば解決、という話とは違います。

土づくりと同じで、ここは地道です。微生物の多様性は、一発の資材投入ではなく、有機物を入れ続け、土を荒らさず、多様な作物を育てるという積み重ねでゆっくり育ちます。腸内細菌の多様性も、食物繊維(腸の細菌にとっての「肥料」)や発酵食品を含む幅広い食事という、長い時間軸の営みに支えられるとされます。即効性のスイッチを探すより、土壌そのものを耕す発想が要るのです。

「あなた専用の食事」という精密栄養の未来

Zeevi らの一連の研究が描くのは、精密栄養(precision nutrition) という方向です。万人向けの食事ピラミッドから、一人ひとりの体質・血液指標・腸内細菌に合わせて設計する食事へ。

これは農業が歩んできた道とよく似ています。かつては「この地域はこの作物にこの肥料」という一律の慣行でした。それが土壌診断・精密農業へと進み、いまは畑の区画ごと、さらにはセンサーで圃場内のばらつきまで見て施肥を変える時代になりました。入力を均一にするのではなく、受けとる側の状態を測って処方を変える。精密栄養は、その思想を人体に持ち込んだものと言えます。

ただし注意したいのは、こうした個別化が誰でもすぐ実践できるわけではないことです。連続血糖測定や腸内細菌解析にはコストもかかり、医療的な判断が必要な場面もあります。糖尿病前症や糖尿病の管理は自己流ではなく医療者と進めるべき領域です。本記事は治療法を推奨するものではなく、研究が示す「食の個人差」という視点を共有するものです。

それでも、「同じパンでも反応は人それぞれ」という事実を知っておくことには価値があります。誰かにとっての正解が、自分にとっての正解とは限らない。自分の体という畑の土を、少しずつ観察し、耕していく。その姿勢こそが、精密栄養の入り口なのだと思います。

ひとこと(畑の視点で)

土井:この研究を読んでいちばん膝を打ったのは、「同じ肥料でも畑によって効き方が違う」っていう、農家なら誰でも知ってる事実が、人間の食事でも同じだって示されたところなんだ。

聞き手:GI値みたいな「食品の性質」だけ見ててもダメ、ってことですか。

土井:そう。窒素を10kg撒いたとき、よく効く畑とほとんど反応しない畑がある。土の中の微生物相が違うからだよ。腸も同じで、同じパンを食べても腸内細菌のプロファイルが違えば血糖の上がり方が変わる。入力じゃなくて、受けとる土を見ろってことだね。

聞き手:じゃあ、菌を足せば血糖が下がるんですか?

土井:そこは慎重にいきたい。研究が言ってるのは「腸内細菌が予測の手がかりになる」であって「足せば下がる」じゃない。畑だって、菌資材を一袋入れたら土が変わるわけじゃないだろう。有機物を入れ続けて、何年もかけて土が育つ。腸も結局、食物繊維と発酵食品を地道に、なんだよ。

元動画

出典

  • Zeevi D, Korem T, Zmora N, et al. “Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses.” Cell. 2015;163(5):1079-1094. DOI: 10.1016/j.cell.2015.11.001
  • Ben-Yacov O, Godneva A, Rein M, et al. “Personalized Postprandial Glucose Response–Targeting Diet Versus Mediterranean Diet for Glycemic Control in Prediabetes.” Diabetes Care. 2021;44(9):1980-1991. DOI: 10.2337/dc21-0162
  • Rein M, Ben-Yacov O, Godneva A, et al. “Effects of personalized diets by prediction of glycemic responses on glycemic control and metabolic health in newly diagnosed T2DM: a randomized dietary intervention pilot trial.” BMC Medicine. 2022;20:56. DOI: 10.1186/s12916-022-02254-y

よくある質問

同じ食べ物なのに、人によって血糖値の上がり方が違うのはなぜですか?
Zeevi らの研究(Cell 2015)では、800人が同じ標準化された食事をとっても食後血糖の反応に大きなばらつきがあり、その差を年齢や体格、血液指標、そして腸内細菌叢の組成などから予測できたと報告されています。つまり食品そのものの『性質』だけでなく、それを受けとる側の体質や腸内細菌のプロファイルが反応を左右するとされます。土が違えば同じ肥料でも作物の育ち方が変わるのに似ています。
個別化された食事は、一般的な食事ガイドラインより本当に効果があるのですか?
プレ糖尿病(糖尿病前症)の成人225人を対象にした無作為化研究(Ben-Yacov ら, Diabetes Care 2021)では、機械学習で予測した個別化食(PPT食)が、地中海食と比べて食後血糖の指標やHbA1cをより大きく改善したと報告されています。ただし対象や期間が限られた研究であり、すべての人・すべての状況で有効と断定はできません。あくまで『一律のラベルより個人差を考慮する余地がある』という研究知見です。
腸内細菌を整えれば血糖コントロールが改善しますか?
現時点では『整えれば必ず改善する』とは言えません。研究で示されているのは、腸内細菌叢の組成が食後血糖応答を予測する因子の一つであり、個別化食の効果に関与しうるという相関・予測の関係です(Zeevi 2015 ほか)。因果として『この菌を増やせば血糖が下がる』と断定できる段階ではありません。食物繊維や発酵食品など腸内細菌の多様性を支える食事は土づくりに似た地道な取り組みで、医療管理の代わりにはなりません。

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