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食物繊維はどう発酵されるのか

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食物繊維の働きは『水溶性か不溶性か』より『腸内細菌に発酵されるか(発酵性)』で決まる。MakkiらはCell Host & Microbeの総説で、繊維の化学構造の多様性が腸内細菌の分業を生み、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を介して宿主の健康に関わると整理した。一種類の繊維に偏らず、構造の異なる繊維を幅広く摂ることが多様な発酵者を養う。これは土壌で多様な有機物が多様な分解菌を支える構図と重なる。

この記事のTL;DR

  • 食物繊維の効き方は「水溶性か不溶性か」よりも「腸内細菌に発酵されるか(発酵性)」で決まる、というのがMakkiらの整理の核心。
  • 繊維は化学構造が極めて多様で、その構造の違いが「どの菌が分解できるか」を決める。多様な繊維が多様な発酵者を養う。
  • 発酵の産物である短鎖脂肪酸(SCFA)、とくに酪酸は、大腸上皮のエネルギー源となるなど宿主の生理に関わるとされる。
  • 同じ繊維でも人によって反応が違うのは、発酵を担う菌の有無・量に個人差があるため。
  • 土壌で多様な有機物が多様な分解菌を支えるのと、腸で多様な繊維が多様な発酵菌を支えるのは同じ構図だ。

「食物繊維をたくさん摂りましょう」——健康記事の定番フレーズだ。だが「食物繊維」とひとくくりにした瞬間、私たちは大事なものを見落とす。土に有機物を入れるとき、私たちは「落ち葉も、わら も、堆肥も、ぜんぶ同じ有機物だ」とは考えない。落ち葉を分解する菌、難分解性のリグニンに取り組む菌、糖をすばやく食べる菌——投入する有機物の種類によって、働く微生物が変わる。腸も同じだ。Kassem Makkiとフレドリック・バックヘッドらが2026年現在も広く参照される総説(Cell Host & Microbe, 2018)で示したのは、食物繊維を一枚岩で語ることの限界と、「発酵される繊維」という視点の重要性だった。

「水溶性か不溶性か」では足りない

長く使われてきた「水溶性食物繊維/不溶性食物繊維」という分類は、便利だが粗い。Makkiらは、繊維をもっと多面的に——溶解性、粘性、そして発酵性という物理化学的な性質で捉えるべきだと整理する。

たとえば水溶性であっても腸内細菌に発酵されにくいものがあり、逆に不溶性とされる繊維の一部は発酵される。腸の中で実際に何が起きるか、つまり「菌がそれを食べてSCFAに変えるかどうか」を決めるのは、水に溶けるかどうかという一点ではない。繊維の分子骨格そのものだ。

この視点の転換は実用的でもある。「水溶性繊維を摂ればいい」という単純化は、腸内細菌の側の事情——その繊維を分解できる菌がいるか——を無視してしまうからだ。

構造の多様性が「分業」を生む

植物細胞壁を構成する多糖は、構成糖の種類、結合様式、枝分かれの仕方が異なり、その組み合わせは膨大だ。Makkiらが強調するのは、この構造の多様性こそが腸内細菌叢の働きを引き出す鍵だという点である。

ある繊維を分解するには特定の酵素群が必要で、その酵素を持つ菌は限られる。難分解性の繊維は、まず一部の菌が部分的に分解し、その分解産物を別の菌が利用する——いわば「分解のリレー(クロスフィーディング)」が起きる。単一の菌がすべてを処理するのではなく、構造の異なる繊維それぞれに対応する菌が分業する生態系として腸内細菌叢は機能している。

だからこそ、一種類の繊維サプリに偏るより、構造の異なる繊維を食事から幅広く摂ることが、多様な発酵者を養うことにつながる、という含意が導かれる。

発酵の産物——短鎖脂肪酸(SCFA)

繊維が発酵されると、酢酸・プロピオン酸・酪酸といった短鎖脂肪酸(SCFA)が生まれる。Makkiらの総説では、このSCFAが宿主の生理に関わる中心的な仲介役として位置づけられている。

とりわけ酪酸は、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源になるとされる。上皮にエネルギーを供給し、腸のバリアや恒常性の維持に関わると整理されている。ただし、ヒトでの臨床的な効果には個人差や条件依存性があり、「繊維を摂れば必ず健康になる」と単純に断定できる段階ではない。あくまで「繊維→発酵→SCFA→宿主の生理」という機序の連鎖が、多くの研究で支持されている、という射程で理解するのが正確だ。

なぜ人によって効き方が違うのか

同じ繊維を摂っても、体感も検査値の変化も人によって違う。Makkiらは、この個人差の大きな要因として、発酵を担う菌の構成の違いを挙げる。

繊維はそれ自体では「ただの難消化性炭水化物」にすぎない。それを発酵してSCFAに変えてくれる菌が腸内にいなければ、期待される産物は生まれない。長期にわたり繊維の乏しい食事を続けると、繊維を発酵できる菌が痩せ細るとする研究もある(これはこのメディアで別途扱った繊維欠乏と粘液層の話とも通じる)。

つまり繊維は、菌叢という「畑」に応じて効きが変わる。畑が痩せていれば、まずは少量から繊維の種類を増やし、発酵者を育て直す——という段階的なアプローチが、研究段階での合理的な方針として浮かび上がる。

土壌のアナロジー

ここで土に戻ろう。健全な土壌に有機物を入れるとき、農学者は「炭素源の質」を気にする。すぐ分解される糖質、ゆっくり分解されるセルロース、ほとんど分解されないリグニン——投入する有機物の組成が、その後に増える微生物の顔ぶれと、放出される養分の出方を変える。単一の有機物ばかり入れ続ければ、それを食べる一部の菌だけが太り、分解の生態系は単純化する。

腸内の繊維発酵は、この土壌の有機物分解と驚くほど相似形だ。多様な構造の繊維(=多様な質の有機物)が、多様な発酵菌(=多様な分解菌)を支え、SCFA(=作物が使う養分)を生み出す。一種類の繊維への偏りは、土に一種類の有機物だけを入れ続けるのと同じで、生態系の多様性を細らせる方向に働く。

『土と内臓』が描いた「土の微生物多様性が作物を守るように、腸の微生物多様性が人を守る」という命題は、繊維というレベルでもそのまま成り立つ。問うべきは「繊維を何グラム摂ったか」だけではない。「どれだけ多様な構造の繊維で、どれだけ多様な発酵者を養えているか」だ。土を耕すように繊維で腸の生態系を耕す——Makkiらのレビューは、その耕し方の科学的な見取り図を与えてくれる。

出典

  • Makki K, Deehan EC, Walter J, Bäckhed F. The Impact of Dietary Fiber on Gut Microbiota in Host Health and Disease. Cell Host & Microbe. 2018;23(6):705-715. DOI: 10.1016/j.chom.2018.05.012 / PMID: 29902436

よくある質問

水溶性食物繊維と不溶性食物繊維、どちらを摂ればいいですか?
この二分法は分類として粗く、Makkiらは『発酵性(腸内細菌に分解されやすいか)』『粘性』『溶解性』という複数の物理化学的性質で繊維を捉えるべきだとしています。水溶性でも発酵されにくいものがあり、不溶性でも一部は発酵されます。どちらか一方ではなく、構造の異なる繊維を多様に摂ることが多様な発酵菌を支えるとされ、特定の一種に偏らせない方針が研究上は理にかなっています。
短鎖脂肪酸(SCFA)とは何で、どこから来るのですか?
短鎖脂肪酸は酢酸・プロピオン酸・酪酸などの小さな脂肪酸で、主に大腸の細菌が食物繊維などの難消化性炭水化物を発酵する過程で作られます。Makkiらの総説では、酪酸が大腸上皮細胞の主要なエネルギー源となるなど、SCFAが宿主の代謝や腸の恒常性に関わると整理されています。ヒトでの効果には個人差があり、断定はできませんが、繊維摂取とSCFA産生の関連は多くの研究で示されています。
繊維を摂ってもお腹の調子が良くなりません。なぜですか?
繊維を発酵してSCFAに変える細菌が腸内に十分いるかどうかで反応が変わるためと考えられています。Makkiらは、発酵に必要な菌の有無や組成の個人差が、同じ繊維への応答の違いを生む要因になりうると述べています。長く繊維の少ない食事を続けると発酵能を持つ菌が減るとする研究もあり、徐々に量と種類を増やして菌叢を育て直す視点が研究段階で支持されています。体調変化が続く場合は医療者にご相談ください。

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