土の健康を測るとき、農学では作物そのものだけでなく、根の周りにどれだけ多様な微生物が棲んでいるかを見る。地上の作物は、地下の見えない生態系の鏡だ。再生数400万回を超えるTEDxプラハの人気講演で、電気工学者のバーバラ・パルダスが語るのも、これとよく似た話だった——肌という「地表」の不調は、腸という「土壌」と、そこに棲む微生物から考え直せるのではないか、と。
TL;DR
- 講演は「肌の問題を、腸から、そして脳とマイクロバイオームを忘れずに考える旅」として始まる。
- パルダス氏は腸・脳・肌・マイクロバイオームが互いに双方向で通信しているという像を提示する。
- ヒトの体には約30兆のヒト細胞と約100兆の非ヒト細胞(常在菌)があり、「思うほどヒトではない」と語る。
- 腸内微生物は消化・ビタミン合成・免疫・メンタル・ホルモンに関わるとされ、肌の微生物叢は感染から守る役割があるとされる。
- 息子の湿疹と保存料アレルギーをきっかけに、ヨーグルトの乳酸菌に着想を得た発酵由来の保存技術を開発したと述べている。
Q. 講演は何を問いかけているのか?
冒頭でパルダス氏は、「2000年前にヒポクラテスは『すべての病は腸から始まる』と言ったが、彼は30%だけ正しかった」と切り出す。彼女が示すのは、腸だけでなく脳とマイクロバイオームも忘れず、肌の問題を「内側から」考える、という枠組みだ。電気工学者だった彼女が肌の問題に取り組むようになったのは、息子が保存料への重いアレルギーを持ち、接触性皮膚炎からアトピー性皮膚炎(湿疹)、そしてADHDへと連なる経過をたどったことがきっかけだったと語られる。
ここで断っておきたいのは、これらの関連はあくまで講演者個人の経験と問題提起として述べられているという点だ。一つひとつの因果が医学的に確立しているという主張ではない。
Q. 「肌・腸・脳・バイオーム」のつながりとは?
パルダス氏は聴衆に、腸と脳が双方向で通信し、その両方が肌とも双方向で通信し、さらに三者すべてがマイクロバイオームと双方向でつながっている様子を想像してほしいと促す。そして「私は、すべてが相互につながった複雑な肌・腸・脳・バイオームのシステムだ」と自分に言い聞かせてほしい、と語りかける。
これは畑の見方とそっくりだ。土壌(腸)が痩せれば作物(肌)に表れ、天候や管理(脳)も巡り巡って影響する。そして地上も地下も、無数の微生物(マイクロバイオーム)という共通の住人を介してつながっている。要素を一つずつ切り離して見るのではなく、系全体として捉える——そこが講演の出発点だ。
Q. マイクロバイオームについて講演はどう語っているか?
講演によれば、私たちの体には約30兆個のヒト細胞がある一方、約100兆個の非ヒト細胞——細菌・酵母・真菌など——を抱えて生きている。「私たちは思うほどヒトではない。それでも、私たちの命は文字どおりこの微生物たちに依存している」とパルダス氏は述べる。
腸内のマイクロバイオームは口から始まり、消化管を約10メートル通って肛門で終わる。食物の消化を助け、重要なビタミンを合成し、免疫やメンタルヘルス、ホルモンバランスにも影響するとされる。腸内微生物がいなければ、食べたものから栄養を取り出せず、長くは生きられないだろう、とも語られる。肌にも微生物叢があり、腸ほど豊かではないものの、感染から体を守る役割があるとされる。
土の微生物多様性が作物を病害から守るように、腸や肌の微生物多様性が人を守る——loamが繰り返してきたこのアナロジーと、講演の見立ては重なる。
Q. なぜ乳酸菌を使うスキンケアにたどり着いたのか?
パルダス氏によれば、息子のアレルギーの引き金になった保存料は、世界の personal care 製品の50%以上に使われ、濃度1%未満なら安全とされるが、1%を超えると接触性皮膚炎を起こしうるという。彼女は「副作用のない代替技術を作る」と決め、分野を変えた。
転機は日常の一場面だった。何をすべきか分からないまま冷蔵庫を開けると、ヨーグルトが目に入った。そこで「乳酸菌(ラクトバチルス)だ」とひらめいたという。人類は何千年も発酵と食品保存に乳酸菌を使ってきた——ならばスキンケアにも使えるはずだ、という発想だ。彼女はチームを組み、発酵由来の保存技術を開発したと語る。それは肌の常在菌叢を乱しにくく、「自然を模している」ため、スキンケアを塗っても肌の微生物叢が『核爆弾だ』と慌てずに済む、というたとえで説明される。
なお、これらの効果や安全性は講演者が自身の開発文脈で述べたものであり、本記事が特定製品の効能を保証するものではない。また講演後半では、ニキビ治療に使われる成分の安全性をめぐる話題にも触れられているが、本記事では肌・腸・マイクロバイオームのつながりという主題に絞って紹介した。
ひとこと(畑の視点で)
土井: この講演でいちばん腑に落ちたのは、保存料の選び方の話だ。畑で除草剤を撒けば雑草は消えるが、同時に土の微生物も巻き添えにする。強い殺菌は「核爆弾」になりうる。だから先進的な農家は、土の生態系ごと壊さない方法を探す。パルダス氏が乳酸菌に向かったのも同じ発想に見える。肌も腸も、敵を叩く発想から、棲んでいる微生物の多様性を保つ発想へ——耕す側の論理だ。もちろん、自分や家族の症状で迷うときは、自己判断で極端に走らず専門家に相談してほしい。
元動画
- チャンネル: TEDx Talks
- タイトル: Healthy skin starts from within | Barbara Paldus | TEDxPrague
- URL: https://www.youtube.com/watch?v=rXNt_X5F67I
本記事は同講演の文字起こしを起点に、講演者の主張を「動画では〜と説明している」という形で帰属しながら日本語で再構成したものであり、逐語的な要約でも、述べられた効果を保証するものでもない。
肌や腸の症状、アレルギーなど健康上の不安がある場合は、自己判断で対処せず、皮膚科医など医療機関に相談してください。
よくある質問
- パルダス氏が講演で示す「肌・腸・脳・マイクロバイオーム」の関係とは?
- 講演では、腸と脳が双方向で通信し、その両方が肌とも双方向で通信し、さらに三者すべてがマイクロバイオーム(常在菌叢)と双方向でつながっている、という像が示されています。彼女は自分を『すべてが相互につながった複雑な肌・腸・脳・バイオームのシステム』として捉えてほしいと述べています。これはあくまで講演者の見立てを整理したもので、個々の因果関係がすべて確立しているという主張ではありません。体調の不安は医療機関にご相談ください。
- 講演ではマイクロバイオームをどう説明していますか?
- 講演によると、ヒトの体は約30兆個のヒト細胞を持つ一方で、約100兆個の非ヒト細胞(細菌・酵母・真菌など)を抱えており、これらがマイクロバイオームを構成するとされます。腸内のものは口から始まり消化管を通って肛門まで約10メートルにわたり、食物の消化やビタミンの合成を助け、免疫やメンタル、ホルモンバランスにも影響すると説明されています。肌にも微生物叢があり、感染から体を守る役割があるとされています。
- 乳酸菌をスキンケアに使うという発想はどこから来たのですか?
- 講演では、息子の保存料アレルギーをきっかけに『副作用のない代替技術を作りたい』と考えていたパルダス氏が、ある日冷蔵庫を開けてヨーグルトを目にし、乳酸菌(ラクトバチルス)に着想を得たと語られています。人類は何千年も発酵や食品保存に乳酸菌を使ってきたのだから、スキンケアにも応用できるのではないか、という発想です。彼女のチームが開発した発酵由来の保存技術は、肌の常在菌叢を乱しにくいと説明されていますが、効果や安全性の評価は研究・実用化の文脈で語られたものです。