🌈

食の多様性が腸内細菌の多様性を支える

※本記事は アフィリエイト広告(PR)を含みます。

Heiman & Greenway (2016) は、健康な消化管ほど腸内細菌の種の豊かさ(richness)が高く、多くの疾患では多様性が下がることを整理した総説である。彼らは『食事の選択が各菌種の基質を選び、競争上の優位を与える』と述べ、限られた食品ばかりの現代食が腸内生態系を単一化させると論じた。多様な食材を食べることが菌の多様性とレジリエンスを支えるという仮説を提示し、食の多様性による腸内細菌の richness 拡大が新しい栄養学・診断・治療の概念を広げ得ると結んだ。これは観察と機序に基づく提言で、特定の疾患を食事だけで治すと示したものではない。

「何を食べるか」だけでなく「どれだけ多くの種類を食べるか」。Heiman & Greenway (2016) は、この 食の多様性(dietary diversity) こそが腸内細菌の多様性を支える要だと論じた、短いが影響力の大きい総説です。腸活で語られる「週にできるだけ多くの植物を」という発想の理論的な土台のひとつになりました。

原著: Heiman, M.L., Greenway, F.L. A healthy gastrointestinal microbiome is dependent on dietary diversity. Molecular Metabolism 5(5), 317–320 (2016). DOI: 10.1016/j.molmet.2016.02.005. PMID: 27110483

要点

  • 健康な消化管ほど腸内細菌の 種の豊かさ(richness) が高い傾向がある
  • 肥満・炎症性腸疾患・代謝疾患など、多くの状態では多様性の 低下 が観察される
  • それぞれの菌は異なる食品由来の基質を栄養源にし、食事の選択がどの菌に競争優位を与えるかを左右する
  • 限られた食品に偏った現代食は、腸内生態系を 単一化 させる方向に働くと論じた
  • 多様な食材を食べることが菌の多様性と レジリエンス(撹乱からの回復力) を支えるという仮説を提示した

なぜこの論文が重要か

腸内細菌の研究は、個々の「善玉菌・悪玉菌」を探す方向から、生態系全体の 構造 を見る方向へと移ってきました。本総説は、その転換点で「多様性を決める最大の操作可能な要因は食事の幅である」とシンプルに言い切った点に価値があります。

著者らが引いた中心的な論理は、生態学そのものです。ある生態系で何種が共存できるかは、利用できる ニッチ(資源の隙間) の多さで決まります。腸の中でニッチを作るのは、私たちが食べた食品に含まれる繊維・ポリフェノール・難消化性デンプンといった基質です。食品の種類が少なければニッチも少なく、勝者だけが残る。種類が多ければニッチが増え、多くの菌が居場所を得られる——この対応関係を腸に当てはめたのが本論文の骨子です。

食事の「量」より「種類」

栄養学は長く、エネルギー量や三大栄養素の 比率 を中心に語ってきました。Heiman & Greenway はそこに、腸内細菌から見た 品目数(多様性) という軸を加えます。

同じ食物繊維量でも、一種類の繊維を毎日食べるのと、十種類の植物から少しずつ食べるのとでは、腸に供給される基質の幅が違います。前者では特定の分解菌だけが太り、後者では多様な分解菌が分担して働く。論文はこの「分担」が多様性とレジリエンスの源だと考えます。後の市民科学研究(American Gut Project など)でも、週に食べた植物の種類数が腸内細菌の多様性と最も強く相関したと報告されており、本総説の仮説と整合する観察が積み重なっています。

多様性が下がるとなぜ問題なのか

多様性の高い生態系は、撹乱に強い——これは農地でも森でも知られた経験則です。腸でも、抗生物質・感染・偏った食事といった撹乱が起きたとき、機能の重複(複数の菌が同じ仕事をこなせる状態)が多いほど、全体の働きが保たれやすいと考えられます。

逆に多様性が痩せると、ひとつの菌が抜けた穴を埋める控え選手がいなくなり、繊維の発酵や短鎖脂肪酸の産生といった機能が脆くなります。本総説は、多くの疾患で観察される低多様性を「結果」かつ「悪循環の一部」として位置づけ、食の多様性でその循環に介入できる可能性を示しました。ただしこれは仮説と関連の段階であり、食事だけで特定の病気を治せると示したものではない点は、著者ら自身が慎重に線を引いています。

土壌のアナロジー

この論文は、農学者にはひどく見覚えのある話です。単一栽培(モノカルチャー) の畑を思い浮かべてください。同じ作物を毎年同じ場所に植え続けると、その作物に都合のよい一部の土壌微生物だけが増え、土の菌叢は痩せていきます。やがて連作障害が起き、病害や地力低下に弱い畑になる。

対して、輪作と多品目の混植を続ける畑では、作物ごとに異なる根の分泌物(基質)が土に供給され、多様な微生物が分担して窒素固定・有機物分解・病原抑制を担います。多様な「えさ」が多様な「働き手」を養い、その働き手の層の厚さが、撹乱からの回復力になる。

Heiman & Greenway が腸について述べたことは、ほぼそのまま畑の話に置き換わります。食卓のモノカルチャーは、腸のモノカルチャーを作る。 一方、食材の輪作——週ごとに違う植物を回す食べ方——は、腸という土壌に多品目を播くことに等しい。Loam が「土をメンテするように腸をメンテする」と言うとき、その最も具体的な実践がこの「食の多様性」です。畑を耕す人が一品種に賭けないのと同じ理由で、腸を耕す人も食卓の品目を増やす。

実践に落とすと

論文の主張を日常に直すと、目標はシンプルです。繰り返しを減らし、種類を増やす。 同じ朝食を365日続けるより、穀物・豆・野菜・果物・ナッツ・種子・海藻・きのこといった群から、繊維やポリフェノールの異なる食品を幅広く回す。一品ずつの量は小さくてかまいません。

サプリメント一種で多様性を「補う」発想より、買い物かごの品目数を増やす方が、本論文の趣旨に沿っています。なお多様性はあくまで健康の指標・資源のひとつであり、体質や持病によって最適な食事は変わります。疾患のある方は主治医や管理栄養士と並走しながら取り入れるのが安全です。効果や反応には個人差があります。

出典

  • Heiman, M.L., Greenway, F.L. A healthy gastrointestinal microbiome is dependent on dietary diversity. Molecular Metabolism 5(5), 317–320 (2016). DOI: 10.1016/j.molmet.2016.02.005. PMID: 27110483
  • McDonald, D., et al. American Gut: an Open Platform for Citizen Science Microbiome Research. mSystems 3, e00031-18 (2018). DOI: 10.1128/mSystems.00031-18
  • Le Chatelier, E., et al. Richness of human gut microbiome correlates with metabolic markers. Nature 500, 541–546 (2013). DOI: 10.1038/nature12506

関連記事: [[le-chatelier-2013-gut-richness|腸内細菌の豊かさと代謝マーカー]] / [[mcdonald-2018-american-gut|『週30植物』エビデンスの原典]] / [[fiber-is-fertilizer|食物繊維はなぜ腸の肥料なのか]] / [[soil-and-gut-complete-guide|土と腸の完全ガイド]]

よくある質問

なぜ食事の多様性が腸内細菌の多様性につながるのですか?
Heiman & Greenway 2016 は、それぞれの腸内細菌が異なる食品由来の基質(食物繊維やポリフェノールなど)を栄養源にしている点に注目しました。食べる食品の種類が限られると、その基質を使える一部の菌だけが優位になり、他の菌は基質を得られず減っていきます。逆に多様な食材を食べるほど多様な基質が供給され、より多くの菌種が共存できると論じています。つまり食卓の多様性が、腸内という生態系の『えさの多様性』を決めるという考え方です。
腸内細菌の多様性が高いことは健康によいのですか?
本総説は、健康な消化管ほど菌の種の豊かさ(richness)が高い傾向があり、肥満・炎症性腸疾患・代謝疾患など多くの状態で多様性の低下が観察されると整理しています。ただし『多様性が高い=必ず健康』と一対一で断定できるわけではなく、何の菌が・どんな機能を担うかも重要とされます。著者らは多様性を健康のひとつの指標・資源として位置づけ、食の多様性でそれを育てる可能性を提案した段階で、因果を確定した研究ではありません。
食の多様性を増やすには具体的に何をすればよいですか?
本論文の主張に沿えば、同じ食材を繰り返すより植物性食品の『種類』を増やすことが鍵になります。穀物・豆・野菜・果物・ナッツ・種子・海藻・きのこなど、繊維やポリフェノールの異なる食品を週単位で幅広く回すイメージです。関連研究では週に多くの植物種を食べる人ほど腸内細菌の多様性が高い傾向も報告されています。サプリ一種で多様性を補うより、食卓の品目を増やす方が論文の趣旨と整合した現実的な方向とされます。効果には個人差があります。

Loam トップに戻る